こんなところから遺言書が!?
家族が死亡して遺品整理をしていたら、思いもよらず遺言書が出てきてしまった・・・という不測の事態もありうるものです。
今回は遺言書が出てきたときにどうすればいいのか、遺言書の内容とは違う遺産分割をすることができるのかといった点について、みなさまの疑問にひとつひとつお応えしていきます。
遺言書の要式
法律で定められた要式が満たされていない遺言書には、法的効力は発生しません。
そして、遺言書の種類によって、定められた要式が違います。
つまり、見つかった遺言書がどのような種類の遺言書なのか、その遺言書は法律で定められた要式が満たされているのか。
まずはそれを確認する必要がありますが、封書の遺言書が見つかった場合は、すぐに開封しないようにしてください!
以下に遺言書の種類と対応方法についてご説明いたしますので、まずは見つかった遺言書がどの種類の遺言書なのかを把握しましょう。
遺言書の種類と対応方法について
遺言書とは、「亡くなる方が生前に財産の分け方や気持ちを書き記したもの」のことをいいます。
遺言書を書き遺してくれることによって、遺言による親族間の争い「争族」を防ぐという効果もあるかと思います。
ただし、遺言書の種類によって法律で定められた要式と対応方法が変わってきますので注意が必要です。
まずはひとつひとつ遺言書の種類をご紹介しつつ、各々の遺言書の対応方法につきご案内します。
普通方式の遺言書
「自筆証書遺言」
自筆証書遺言とは、自分で記載して自分で保管するタイプの遺言書になります。
要式
具体的な日付、氏名が書かれていること。
そして、遺言内容を含めて全て自書(遺言者自身の手書き)で記載されていることが必要です。
ただし、平成31(2019)年1月13日以降に作成された遺言書については、コピーやパソコンによって作成された財産目録も有効とされるようになりました。
この場合は、全てのページに自書による署名と押印が必要になります。
使用する印鑑は、認印や拇印で構いません。
対応方法
この種類の遺言書を見つけたら、まずは家庭裁判所による「検認」という手続きをする必要があります。
封印のある自筆証書遺言を検認前に開封してしまうと、5万円以下の過料が科せられてしまいますので、封書の遺言書を発見したら、すぐに開封しないように注意してください。
なお、検認前に開封したことによって遺言書自体が無効になることはありません。
法務局による自筆証書遺言書保管制度
令和2(2020)年7月10日から、「法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度」が創設されます。
簡単に言うと、自筆証書遺言書は自分で保管するなり代理人に保管してもらうなり・・といった不確実な方法で保管するしかなかったところ、法務局で保管してもらうことができるようになる制度です。
この方法によって保管された遺言書である場合は、本人が作成した遺言書であることが法務局にて証明されていますので、「検認」手続きが不要になります。
遺品整理をしているときに遺言書保管証が見つかったら、法務局に閲覧請求を行いましょう。
詳しくは、法務局のHPをご確認ください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
「公正証書遺言」
公正証書遺言とは、公証役場にて作成し、原本を公証役場にて保管してもらうタイプの遺言書になります。
公証人が作成しますので、法的な要件を満たしているものであることはもちろんのこと、確実に保管することができる遺言書です。
要式
公証人が遺言者の意思に基づいて作成します。
原本、正本(原本と同様の効力がある原本の写し)を作成し、原本は公証役場にて保管、正本は控えとして遺言者が保管します。
対応方法
正本が遺言者の手元に残りますので、この遺言書を見つけることがあるかもしれません。
公正証書遺言は「検認」不要です。
「秘密証書遺言」
秘密証書遺言とは、遺言者が自分で作成し、中身を秘密にしたまま公証役場にて存在を証明してもらうタイプの遺言書です。
要式
自筆証書の要式とほぼ同様ですが、全文をパソコン等で記載することができますが、自筆の署名と押印が必要になります。
そして、中身は秘密になりますので、公証役場で証明してくれるのはにて遺言書の存在のみになります。
遺言書は遺言者自身が保管します。
対応方法
この種類の遺言書が見つかった場合も、自筆証書遺言と同様、「検認」手続きが必要です。
秘密証書遺言書は必ず封書になっていますので、開封せずに「検認」手続きに進めなければなりません。
特別方式の遺言書
緊急性の高い場合に使われる、特別の遺言書です。
立会人が預かる遺言書になりますので、遺品整理をしていて見つかる・・といったことはないタイプの遺言書になりますが、遺言書の種類としてご案内しておきます。
危急時遺言
事故等によって死期が間近に迫ってしまった場合の緊急性の高い遺言方式で、下記の2種類が想定されています。
- 一般危急時遺言
- 難船危急時遺言
隔絶地遺言
伝染病や船に乗船していて、生きて自宅に帰れそうにないような場合の、こちらも緊急性の高い遺言方式になります。
今般コロナウィルスに罹患して隔離されてしまった方々の中には、このような方式をとられた方が少なからずいらっしゃるのではないかと思います。
- 伝染病隔離者遺言
- 在船者遺言
「検認」手続きについて
自筆証書遺言書、そして秘密証書遺言書には家庭裁判所による「検認」という手続きが必要である、とご案内しました。
では、どのように手続きすればいいのでしょうか。
まずは、下記の書類を集める必要があります。
- 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本(除籍、改製原戸籍含む)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺言者の子が死亡している場合、その子の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本(除籍、改製原戸籍含む)
遺言者の子が死亡している場合は、さらにその子が相続人になること(代襲といいます)があります。
相続人によっては上記の書類の他にも必要な書類が出てくる場合がありますので、詳しくは、家庭裁判所や専門家にご相談されることをお勧めします。
上記の書類が揃ったら、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に遺言書を持参し、申立書に記載して申立を行います。
- 800円分の収入印紙
- 郵便切手(額面と内訳は管轄の家庭裁判所によって異なりますので、事前にお問い合わせください。)
申立の後、期日(裁判所で検認が行われる日時)が指定されますので、その日時に裁判所に相続人が集まり、全員の面前で開封されることになります。
ー 家庭裁判所HP ー
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
遺言書の効力
効力が発生する時期
遺言者が亡くなった時に効力が発生します。
亡くなるまでの間、何度でも書き直したり、新しい遺言書を作成することができます。
要式が満たされていない遺言書の効力
法律で定められた要式が満たされていない遺言書には、効力がありません。
要式が定められているか否かについては専門家の判断を要する場合があります。
「検認」手続きは遺言書の有効性が判断される手続きではありませんので、注意してください。
遺言書が複数ある場合の優先順位
複数の遺言書が見つかる場合があります。
そんな時はどの遺言書が有効だと考えればいいのでしょうか。
この場合、もっとも新しい日付(遺言者が亡くなった日に最も近い日)の遺言書が優先されて有効なものとなります。
遺言書の種類によって優先順位が変わるわけではありません。
例えば、自筆証書遺言書より公正証書遺言書が優先されるということはないのです。
公正証書遺言書よりも新しい日付の自筆証書遺言書があった場合は、自筆証書遺言書が優先されるわけです。
遺言書とは違う遺産分割にしたい場合
相続人全員の同意があれば、遺言書と違う内容の遺産分割をすることも可能です。
この場合は、「遺産分割協議書」を作成する必要があります。
相続人全員の実印を押印し、印鑑証明書を添付することで遺産分割協議書が有効になります。
また、相続財産である銀行預金や不動産などの分割手続きをするためには、先ほど「検認」手続きについての項目でご案内した戸籍謄本類も必要になってきます。
相続人が多かったり、転籍回数が多かったりすると、戸籍謄本類の収取だけでも大変な日数と費用がかかってしまいます。
全ての手続きに度々全部の戸籍謄本の提出をしなければならないとなると、多額の費用が必要になるケースもあります。そうした問題を解消するため、平成29(2017)年に「相続情報登記制度」が創設されました。
法務局に戸籍謄本類を各1部と相続関係図(法定相続情報一覧図)を提出することで、相続情報登記書を発行してくれます。
この、法務局で証明してもらった法定相続情報一覧図と被相続人(亡くなった方)の謄本、除票(最後の住所地の除かれた住民票)を用意すれば、遺産分割手続きを簡便・迅速に進めていくことができます。
無料で発行してもらえるものですので、ぜひ、有効に活用していただければと思います。
ー 相続情報登記制度特設サイト ー
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html
※ただし、遺言執行者が指定されている場合は相続人の希望に沿わない場合もあります。
遺言書の内容に納得できず、遺産分割協議も整わない場合
遺言書の内容に納得できず、自分へ分配分が法定相続分を下回っているような場合等は、兄弟姉妹以外の相続人に限り、遺留分侵害額請求をすることも可能です。遺留分は、下記の通りになります。
- 直系尊属(亡くなった方の父母等)のみが相続人である場合
→相続財産の3分の1 - 上記以外の場合
→相続財産の2分の1
遺留分侵害請求は、必ずしも裁判にする必要はありません。
相手との話し合いで解決することも可能です。
もし話し合いがうまく進められなかったら裁判所に申立なければ解決しないことになりますが、遺留分が侵害されていることを知ってから1年間もしくは相続開始(被相続人が亡くなった日)から10年間の間でしか請求することできませんので、なるべく速やかに行動すべきかと思います。
「気持ち」に関わる部分の法的効力
遺言書には、亡くなられた方の気持ちが記載されているケースも多いと思います。
この「気持ち」の部分には、残念ながら法的な効力はありません。
しかしながら、亡くなった方が残された方々に最後に伝えたい大切な「想い」です。
財産の分け方も大事ですが、それよりももっと大切に心に留めておきたいところかな・・と思います。
まとめ
法律で定められた要式が満たされていない遺言書には効力が発生しないため、見つかった遺言書は「なかったもの」として遺産分割をすることも可能です。
ただし、その判断をすることが難しい場合もありますので、十分に注意が必要です。
家庭裁判所による「検認」手続きが必要な遺言書もありますので、見つかった遺言書がどの種類の遺言書なのかをまず確認しましょう。
また、相続人全員の同意があれば、遺産分割協議書を作成することで、遺言書と違う内容の分配方法をとることも可能です。
遺言書を見つけたら、まずは専門家にご相談なさることを強くお薦めいたします。
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