大切なご家族が一生を終えたとき。
悲しい気持ちでいっぱいの中やらなければならないのが「相続手続き」です。
しかし、この相続手続きは多くの方が初めての経験で不安だらけ。
「何から始めたらいいの?」
「誰に相談したらいいの?」
「一体どのくらい時間がかかるの?」と、
次々と疑問が飛び出してくることでしょう。
そんな方のために本記事では「相続手続きの基本的な流れ」についてご紹介いたします。
遺産内容によって手続きに違いが出てきますが、以下の内容が基本と考えてくださいね。
相続手続きの期限
まず、相続手続きには期限が設けられているものがあります。
・相続放棄、限定承認の届出⇒相続の発生を知った日から3か月以内
・亡くなった人の所得税に関する準確定申告⇒相続の発生を知った日の翌日から4か月以内
・相続税の確定申告と納税⇒相続の発生を知った日の翌日から10か月以内
こちらの手続きは期限が定められていますので特にご注意ください。
しかしこれらの手続きをするために、他の手続きを大急ぎで済ませなければなりません。
亡くなった悲しみに暮れてしまうお気持ちもわかります。
しかし、亡くなった方が遺してくださった気持ちと遺産をしっかり受け取るためにも相続手続きを頑張りましょうね。
相続手続きの流れ1:遺言書の存在を確認
相続が発生したらまず初めにやるべきは「遺言書の存在を確認すること」です。
遺言書があるなら種類を確認
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類がありますが、
「自筆証書遺言」か「秘密証書遺言」が遺されていた場合、家庭裁判所での検認手続きが必要です。
「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」は検認手続きが必要
検認がなければ、遺言書としての効力がありません。
具体的には、家庭裁判所で相続人が立会いのもと遺言書が開封され検認をされると、「検認調書」という公文書をいただきます。
私文書だった遺言書が、家庭裁判所に検認されることにより公文書になり、遺言書としての機能を果たすのです。
場合によっては検認がなされるまで1か月~1か月半かかることもあるので、出来る限り早く取り掛かりましょう。
※「自筆証書遺言」は法務局での保管がされていれば検認手続きは不要です。
「公正証書遺言」は作成時から公文書
一方「公正証書遺言」はこの限りではありません。
なぜなら、作成時点ですでに公文書となっているからです。
そのため、相続手続きをスムーズに進める場合は「公正証書遺言」が望ましいです。
遺言書の種類に関しては参考記事がございますので、興味のある方は参考にしてみてくださいね。
相続手続きの流れ2:相続人の調査
遺言書の確認が済んだら、相続人の調査に入ります。
遺言書がなく、そのまま遺産分割協議に入る方もまずは相続人が何人いてそれが誰なのかを正確に調べます。
この「正確に」というのが大きなポイントです。
なぜなら、遺産分割協議を終えた後に参加していない相続人の存在が判明した場合、その遺産分割協議が無効になってしまうからです。
遺産分割協議は体力も気力も時間も、多く消費します。
そんな取り越し苦労をしないために、相続人を正確に把握しましょう。
出生から死亡までの戸籍謄本を取得
相続人を正確に把握する手段は、出生から死亡までの戸籍謄本を取得することです。
戸籍謄本は結婚や転籍、法改正などにより通常1人につき3~8通ほどあります。
実際、亡くなった人に別の家族がいることが判明したこともあるんですよ。
そのことを誰も知らず、後にトラブルに発展した例も。
相続人の数が違うと、相続割合が変わってくる場合もありますので
手続き中のトラブルを未然に防ぐためにも、戸籍謄本は出生から死亡まですべて取得しましょう。
相続順位を確認する
出生から死亡までの戸籍謄本が取得できたら、次は相続順位を確認します。
相続順位は法律で以下のように定められています。
・配偶者⇒常に相続人
・子(およびその代襲者)⇒第一順位
・両親(直系尊属)⇒第二順位
・兄弟姉妹⇒第三順位
配偶者は、常に相続人のため子や両親、兄弟姉妹と共同で相続人になることができます。
しかし、実際にはこれ以外にも様々な事例が存在します。
そのような場合の事例を解説している関連記事がございますので、参考にしてください。
関連記事:相続の範囲はどこまで?長男・兄弟など相続人の優先順位は
戸籍謄本の入手方法
ちなみに戸籍謄本の入手のポイントは以下の通りです。
①取得できる窓口:本籍がある(あった)市町村役場 ※郵送での手続き可
②取得できる人:配偶者・直系血族・代理人
③必要なもの:申請書・本人確認書類(代理人は委任状)
実際に必要な書類は各市町村によって違います。
市町村役場のHPに詳細が記載されていますのでよく確認してください。
相続手続きの流れ3:遺産の調査
相続人が正確に把握できたら、次は遺産の調査をしましょう。
この遺産も相続人と同様、正確に把握する必要があります。
なぜなら、遺産を間違ったまま手続きをしてしまった場合、多額の借金を背負う結果になってしまったり、面倒な遺産分割協議をやり直すことにもなりかねないからです。
遺産の種類
遺産には大きく分けてプラスの遺産とマイナスの遺産の2種類が存在します。
・プラスの遺産
①現金・預貯金等
②不動産・不動産上の権利(借地権等)
③有価証券(株式等)
④生命保険金(亡くなった人が受取人)
⑤その他(債権、ゴルフ会員権等)
・マイナスの遺産
①負債(住宅ローン等)
②公租公課(未納税金等)
③保証債務(連帯保証等)
④その他(損害賠償、未払い医療費等)
ここでご注意いただきたいのは、「生命保険金」です。
生命保険金は、亡くなった方が受取人の場合のみ遺産に含まれます。
それ以外の生命保険金は遺産に含まれませんので覚えておきましょう。
遺産の書類を探す
では、実際に亡くなった人がどんな遺産を保有しているか調査します。
非常に地道ですが、故人の自宅等で書類を探してみましょう。
金庫や大事なものが入っている引き出し、仏壇などを探し各遺産を証明するための書類を探します。
書類の内容は、当然遺産の種類によって違いますが例は以下の通りです。
①預金通帳・キャッシュカード・証券会社等からの郵送物
②生命保険証書・契約内容のお知らせ
③不動産権利書・登記簿謄本・納税通知書
④借用書・確定申告書の控え
いくら探しても見つからない場合や、探し出したものの他にもレンタルスペース等にしまい込まれていたという場合も多いんです。
特に突然亡くなってしまった方の場合は、書類を探すのも本当に大変です。
そんな場合にどのようにして調査すると良いかを次にご紹介しますね。
預貯金・有価証券の調査方法
預貯金や有価証券は「残高証明書」を取得しましょう。
金融機関での手続きの流れとしてはまず、相続発生の事実を連絡します。
これは直接金融機関に行っても、電話連絡でも可能です。
この連絡を行うことで亡くなった人の口座が凍結されます。
その連絡をした後に金融機関で残高証明書の発行申し込みを行いますので、行ける方は直接行って一度に手続する方が楽です。
この際、亡くなった人の相続人である証明をするため「戸籍謄本」を持参していきましょう。
何も持参せずに行くと、個人情報保護の観点から手続きしてもらえませんのでご注意ください。
申し込みが完了すれば、1週間~10日ほどで自宅に郵送してくれますよ。
預貯金通帳だけで十分な場合もありますが、後のトラブル防止の観点から残高証明の取得をおすすめします。
各金融機関を回るのは大変に感じるかもしれませんが、正確に把握することができるのでおすすめです。
不動産の調査方法
不動産の調査方法は、法務局で「登記事項証明書」を取得するのが最速です。
毎年「固定資産税納税通知書」が届きますので、それを持って法務局に向かってください。
こちらは誰でも取得できる書類ですので、相続人同士で手分けすると良いでしょう。
また、複数不動産を保有している場合は「名寄帳」を取得するのもおすすめです。
こちらを取得すると、同一市区町村内に保有している不動産を一覧で確認することができますよ。
「名寄帳」は市区町村役場で取得することができます。
「登記簿謄本」は法務局、「名寄帳」は市区町村役場での取得ですのでお間違いの内容気を付けてくださいね。
相続手続きの流れ4:相続放棄・限定承認の決定
遺産を正確に把握することができたら、「相続放棄」「限定承認」について考える必要が出てきます。
遺産を相続するか否かに関して、相続人に選択の権利が与えられているのです。
相続方法は以下の3種類に分類することができます。
①単純承認:すべての遺産(プラスもマイナスも)を相続する
②限定承認:プラスの遺産を超えるマイナスの遺産は相続しない
③相続放棄:遺産の一切を相続しない
これらの選択を相続の発生を知った日から3か月以内に行わなければなりません。
単純承認の手続きの流れ
まずは、単純承認の手続きの流れです。
結論から申し上げると、単純承認は特に手続きの必要はありません。
単純承認を選択するとすべての遺産を相続することになりますが、こちらが通常の流れなので特に届出をしなくてよいのです。
つまり何も届出をしなければ自動的に単純承認をしたとみなされるということです。
これが吉と出るか凶と出るかは、プラスの遺産とマイナスの遺産の配分次第ですよね。
これを判断するためにも、相続人や相続財産は正確に把握するべきなのです。
限定承認の手続きの流れ
限定承認手続きは、相続の発生を知った日から3か月以内に相続人全員で合意し、家庭裁判所に「家事審判申立書」を提出します。
限定承認は、プラスの遺産の範囲内でマイナスの遺産を相続するという相続方法になります。
例えば借金が預貯金等のプラスの遺産の額を超えている場合、単純承認すると借金が相続されます。
こんなにややこしい相続手続きをしたのに、借金を背負うことになるのはデメリットしかありません。
そのような場合に有効なのが「限定承認」です。
また、限定承認は申立から承認までに、数か月~1年程度かかります。
かなり労力のいる手続きですが、故人の借金を背負いたくないという方に必要となる手続きです。
相続放棄の手続きの流れ
相続放棄の手続きの流れは、自分が相続人であることを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。
こちらは1人の判断で手続きできるので、相続人全員の合意を取る必要がありません。
また、手続きから承認までも約1か月ほどですので限定承認に比べて手続きは楽です。
ただし相続放棄をすることによって、マイナスの遺産だけでなくプラスの遺産も相続することができなくなります。
一度相続放棄をしてしまうともう相続人になるということはできませんので、慎重に判断しましょう。
相続手続きの流れ5:所得税の準確定申告
所得税の準確定申告は、相続の発生を知った日の翌日から4か月以内に行います。
1月1日から亡くなった日までに確定した所得と税額を計算し、税務署に書類を提出しましょう。
準確定申告の手続きの流れ
準確定申告は、亡くなった人の住所を所轄する税務署で申告を行います。
必要書類は、確定申告書、提出する人の本人確認書類、源泉徴収票、保険料控除証明書、医療費の領収書等です。
亡くなった人が年金加入者の場合は年金事務所に、会社員だった場合は会社に源泉徴収票の発行を依頼しておきましょう。
必要書類がそろったら、亡くなった人が準確定申告が必要な人かどうかを判断します。
判断基準は次にご紹介しますが、必要だった場合は申告書に金額を記載します。
金額の記載に関しては、税理士さんにお願いする人が多いですね。
相続手続きは他にもやることがたくさんあるので、任せられるところは任せましょう。
しかし、ここで大切なのが、相続人全員の氏名、住所、続柄、マイナンバーの記載と署名押印が必要になるということです。
全員分のマイナンバーカードの写しも添付しなければなりません。
(マイナンバーカードがない場合、通知カード+本人確認書類が必要)
そのため、準確定申告が必要になった時点で相続人全員に協力をお願いしておきましょう。
4か月というのは意外とあっという間です。
遠方にお住まいの相続人にお願いするのは一苦労ですので、早めの対処が功を奏しますよ。
準確定申告に関して分かりやすく解説している以下の記事を参考にしてみてください。
相続サポートセンターHP:準確定申告の手順や申告期限【令和2年】書類作成や申告不要なケースを解説
準確定申告が必要な人
準確定申告は必要な人とそうでない人に分かれますが、必要な人は以下の通りです。
①個人事業を営んでいた人
②不動産を賃貸していた、または譲渡した人
③一定額を超える収入があった人(給与:2,000万円、年金:400万円、副業:20万円)
④2か所以上から給与を受け取っていた人
⑤多額の医療費を支払っていた人
⑥給与や退職金以外の所得があった人
亡くなった人が①~⑥のどれかに当てはまる場合、準確定申告が必要です。
前年度分の確定申告の済否も確認
また、3月15日までに亡くなった場合は前年度分の確定申告が行われたかどうかも確認しましょう。
未済の場合はそちらも併せて行う必要がありますのでご注意ください。
納税は国民の義務です。
抜けのないよう、しっかり手続きを踏みましょうね。
相続手続きの流れ6:遺産分割協議書の作成(遺言書がない場合)
遺産分割協議書は、相続手続きで非常に重要な役割を果たします。
そのため、出来る限り早く作成することをおすすめします。
遺産分割協議書に記載する内容は「①誰が②何を③どのくらい」相続するかです。
遺産分割協議書の作成の流れや作成時のポイントを解説します。
遺産分割協議書の役割
遺産分割協議書の役割は主に以下の3点です。
①相続人間の遺産分割内容を証明する
②不動産の相続登記、相続税の還付手続き等に使用する
③後のトラブル防止
遺産分割協議書を見れば、相続人のうち誰がどの財産をいくら相続するかが一目瞭然です。
そのため後に言った言わないのトラブル防止に繋がりますし、万が一裁判等になってしまっても証拠書類としての効力を持ちます。
さらに、不動産の相続登記等の手続きにも必要なので可能な限り速やかに作成する必要があるのです。
遺産分割協議書への記載内容
遺産分割協議書に記載する内容は主に以下の通りです。
①亡くなった人の氏名、死亡日、最後の本籍
②相続が発生し、相続人全員で話し合った旨
③遺産の内容と相続人の氏名、続柄
④協議が成立した日付
⑤相続人全員の自署押印(氏名、生年月日、住所、続柄を記載)
遺産分割協議書には明確な書式はありませんし、手書きでも、パソコンで作成してもOKです。
ひな形がある方が安心という方は、以下の記事を参考にしてください。
税理士が教える相続税の知識HP:ひな形をダウンロードして完全解説!遺産分割協議書の書き方の決定版
また、遺産分割協議書は相続人の人数分作成しておきましょう。
もし遠方住まいで全員が揃うのが難しい場合は、同じ内容の書類に各人が署名押印し、それが全員分揃っていればOKです。
全員で話し合うことが難しい場合は合意のみ取って、同じ内容の書類にそれぞれの署名押印をしてもらいましょう。
公文書化してトラブル防止
相続人間で作成する遺産分割協議書は、私文書に分類されます。
公文書化する、ということは公証人に作成を依頼し公正証書にするということです。
公文書化することで、トラブルが起こっても裁判になることなく、強制執行するほどの効力を発揮してくれます。
実際、相続というのはトラブルが多いものです。
思いがけない事態を避けるためにも公文書化をおすすめします。
公文書化するための必要書類や、注意点等は以下の関連記事を参考にしてください。
相続サポートセンターHP:遺産分割協議書を公正証書にすべき理由と作成方法
相続手続きの流れ7:相続税の確定申告&納税
ここまでの手続きが終了したら、最後の関門「相続税の確定申告&納税」です。
こちらは相続の発生を知った日の翌日から10か月以内が期限です。
遺産の分割方法が決まったら、遺産の評価額を算定して相続税がかかるかを算出。
相続税がかかる場合は速やかに納税と申告を済ませましょう。
相続税の基礎控除
相続税を計算するにあたって、基礎控除というものが存在します。
これがあるために、相続税がかからない人が出てくるのです。
相続税は、「遺産の総額ー基礎控除額」が1円以上の場合に発生します。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で算出されます。
例えば、相続人が配偶者と子2人の場合。
3,000万円+600万円×3=4,800万円 となります。
つまり、遺産総額が4,800万円を下回る場合相続税は発生しませんが、これを超える場合は納税と申告の必要があります。
また、基礎控除の他にも生命保険の非課税制度など活用すべき制度がたくさんありますので、詳しくは国税庁のHPを参考にしてください。
国税庁HP:相続税の計算と税額控除
相続税を算出
では、相続税を算出しましょう。
以下が相続税算出のステップです。
①各相続人の課税価額の計算
②相続税の総額を計算
③各相続人の相続税を計算
こう見ると簡単そうですが、さまざまな特例を使うことが多いので実際はとても面倒な計算になります。
自分で計算するのも良いですが、税理士さんに任せた方が確実です。
相続税を正しく申告・納税しないと後に大変なことになりますので、プロに任せて余計なトラブルを防ぎましょう。
確定申告書を提出
相続税の確定申告書は亡くなった人の管轄の税務署に提出します。
直接税務署に提出しても良いですし、HPからインターネット申請をすることも可能です。
また、こちらも税理士さんにお任せするのをおすすめします。
準確定申告から一連の流れで受け持っていただく方が楽ですよ。
番外編|相続手続きは誰に依頼すべきか
筆者としては、納税手続きは税理士さんにお願いすることをおすすめします。
理由は、間違った納税をすると罰則が発生するからです。
さらに、納税額の計算は初めての方には結構面倒なもの。
リスクと労力を回避するためにも、プロの力を借りるのがおすすめですよ。
税理士にも得意分野がある
税理士さんにも得意分野・不得意分野があります。
お医者様も、外科や内科、耳鼻科など専門分野がありますよね。
税理士さんも同様に、法人税や所得税など得意分野があります。
相続専門の税理士に依頼
よほど都会でない限り、相続税に関する手続きはそれほど多くありません。
税理士さんにすると経験を積みにくい分野なのです。
ですので税理士さんの中でも、相続税専門の税理士さんに相談するのがベストです。
相続手続きは、遺産の内容や相続人の数、養子の有無や遺言書の有無など毎回手続きが全く違います。
迅速かつ確実に対応していただくため、相続税専門の税理士さんにお願いしましょうね。
まとめ
相続手続きは、大切な家族が遺してくれた大切な遺産をスムーズに引き継ぐための、とても大切な手続きです。
初めての経験で戸惑うことがたくさんあるでしょうが、落ち着いて確実に手続きしましょう。
特に
①相続人の正確な把握
②相続財産の正確な把握
③遺産分割協議書の作成
を迅速に行うことが重要です。
そのためにも専門家に相談し、迅速かつスムーズに進めましょうね。
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